村上春樹

―あなたは三島由紀夫が好きではないと聞いていますが。 三島のスタイルが好きじゃないということです。 ―というのは、彼の文学的スタイルのことですか? それとも彼自身のあり方についてですか? 読者として好きになれないのです。最後まで読めた作品はひとつもありません。 ―三島を軽んじたために、あなたは日本の文壇から、さらに引き離されたのでしょうか? そんなことはないでしょうが、いずれにせよ僕が日本の文壇に好かれていないことは、まあ、確かだと思います。彼らはとにかく違いすぎるのです。少なくとも僕は、彼らが作家とはこうあるべきだと考える存在ではない。彼らは文学というものは多かれ少なかれ、日本語が持つ美しさや、日本文化のテーマを追求するものでなくてはならないと考えている。でも僕はそうは思わない。僕は言葉を道具として使います。とても効果的に使える純粋な道具として。その道具を使って自分の物語を書く。ただ、それだけです。